四角ばった、厚ぼったいミラーレス。でも、ビスケットと呼ばれるレンズは不釣り合いな程極薄。初期の Pentax K-01 の印象は、正直あまり良いものでは無かった。自分の中の「デジイチカメラ像」というものが出来上がりすぎていて、そのデザイン骨格から外れるものに、何か強い反発を感じていたのだ。しかし、一方で、ずっと気になるカメラであり続けた。K-01 の存在は、カメラ店を覗く度にどうしても意識してしまう。好きとは面と向かって言えないが、姿が見えなくなると心配になる、当方にとって K-01 は、そういう不思議なカメラであり続けていた。
そして先日、某量販店で K-01 を見ると、DA 40mm f2.8 XS 薄型レンズとのキットが、実質3万円程になっているではないか。登場時から比べると、あり得ない程の割引率。これは、生産中止か、近々のモデルチェンジを意味しているのだろう。どちらかはわからない。しかし、手に入れるなら今だ、という意識が急激に強まって、マーク・ニューソンデザインのこのカメラをとうとう自室に招き入れた。果たしてそれは、自分でも後で驚く位の、極めて幸福な決断だったのである。
選択したのは、フラッグシップ・カラーのイエロー。白や黄色といった明るい色で、しかもラバー的な外装なので、使い込むと変色するだろうな、とわかっていても、この色を選ばせてしまう、そういうカメラである。ミラーレスカメラを各種使って来た当方だが、よく考えると既存の一眼レフのレンズをそのまま使えるミラーレス、というのはこの Pentax K-01 だけ、だ。小型化という名目の元に、既存レンズとは一線を画すミラーレスが多い中で、同じレンズを使える様にした Pentax の英断は凄いことかもしれない。売らずに手元に残していた Pentax のズームレンズも、また再利用出来る事になった。
実際に手にして驚くのが、デザインだけに留まらない機能性と操作性。On / Off スイッチの操作のし易さ、厚みのある直方体、というボディデザイン故の握り易さ、92万画素の高精細背面ディスプレイによるピントの見易さ。SD カードや端子カバーが表面素材のラバー、という点のみやや心もとないが、それ以外は機能的にも満足出来る内容になっている。
(12/16 追記:カメラトップのシルバー色のハウジングやダイヤル類、色つやからしてプラスチック製と勘違いしていたら、寒い夜に触って冷たく、アルミ鋳造の贅沢な部品だと発見。さすが Marc Newson、細部まで凝っていますね...)
一方で、しばらく使ってみて初めて理解出来たのだが、この目立つ外観デザインのおかげで、持っているだけで気分が高揚し、よりクリエィティブな写真を撮影する動機付けがなされる、という面白い効果もある。存在感の大きいデザイナーズ・ボディは、より創造的な写真を撮る事を、撮影者に強く要求して来るのである。Marc Newson が本カメラの未来的な外観に託した無言の挑戦、それを感じ取る事が出来るかどうか、でこのカメラを使うユーザーの印象は大きく変わるに違い無い。感じられなければ、少し重くて無骨で、AF がちょっと遅めのミラーレス、に見えてしまう。しばらくは当方も、本カメラを遠巻きに眺めていただけだったのだが、価格も手頃になり実際に手にして漸く、その挑戦的要素に気付かされたのだった。
使う程に手に馴染み、そして 40mm f2.8 XS ビスケットレンズの高い描写能力にも驚かされる。作例は以下の flickr 写真を御覧頂き度い。
上記以外にも、こちらの flickr set に作例を撮り貯めているので御参考頂き度い。少し大きめ写真のスライドショーは、こちらからどうぞ。
オーストラリアのシドニー生まれの世界的デザイナー、Marc Newson 氏は、実は東京に移住した上、IDEE のデザイナーであった事もあるとの事。詳細はこちらの Wikipedia で。
そして Pentax 67 等のユーザーでもある同氏は、今回の Pentax との協業を心から楽しんでいた様でもある。その様子は、Pentax が作成したこちらの YouTube ビデオで御覧頂き度い。これからの新しいカメラ・デザインを考える上でも参考になる、貴重なインタビュー動画だ。インタビューの中で、同氏はこの K-01 を初心者向けというよりは、「セミプロ向け」のカメラと位置づけてデザインした事を述べている。我々もそろそろ、Marc Newson の挑戦を真摯に受け止めるべきだろう。ドイツでは、K-01 の先端デザインに対し最近、German Design Award 2013 金賞が授けられている。より洗練されるであろう将来の後継機 K-02 の登場にも、更なる期待をしてしまう、というものである。