家庭内の事情を知るのは家政婦、そしてビジネスの深いところを一番近くで見聞きしているのは、カウンター越しにエグゼクティブと接する事が多い寿司職人、と相場が決まっている。当方がニューヨークで商社マンとして働いていた頃、行きつけの寿司店の板前さんからは、時として我々一般サラリーマンでは知り得ないエグゼクティブの面白いこぼれ話を伺える事があった。勿論それはリアルタイムの情報ではなく、後日談として聞く事になるのだが。
スタンフォード大学近くの三度昼ロード、いや、Sand Hill Road という名の通りは、シリコンバレーのベンチャーキャピタルの集積地として知られている。スティーブ・ジョブズの料理人、佐久間俊雄氏は、その通り沿いで懐石料理店「桂月」を営んでいた。後に生前のスティーブに請われてクパチーノのアップル本社社員食堂の和食担当になられる程スティーブに愛された、本書の著者佐久間氏は、素顔のスティーブやシリコンバレーの著名エグゼクティブ、ベンチャー投資家をカウンター越しに見つめ、常に最高品質の和食とサービスを提供されて来た方である。