2011年8月31日。30年の月日を経て、夢のデジタル・カメラが、ようやく姿を現した。PentaxQ。それは、1979 年に同じ Pentax 社が手がけた auto110 の、正当進化ナノ一眼。この日をどれほど待っていたことか。ズームレンズを同梱したキットの発売は9月半ばに遅れたが、とりあえずは標準レンズ付きキットと、他3本のトイ・レンズを手に入れて、早速利用開始。マグネシウム合金製のボディは指先にも伝わる堅牢さで、200gの軽量さに反して、がっしりとした剛性感で頼もしい。絶妙に配置されたモードダイヤルとコントロールダイヤルは、右側上部に配置され、クリック感もしっかり。ギミック的な伸縮フラッシュも、心配された程華奢ではなさそうだ。全体に、一眼レフを長年手がけたメーカーらしい設計の配慮が見える出来映えだ。コンパクトカメラからの進化、ではなく、大型デジイチからのダウンサイズ、という設計思想が理解出来ると、このカメラの真の価値が見えて来る。
外見だけではなく、中身もより大きなデジイチと比較し遜色無く、驚くほど多機能だ。この超小型カメラのどこにそれ程の機能を収めたのか、と驚くほどのデジタル機能の集積。RAW + JPEG の同時記録が可能で、RAW 現像もカメラ内対応。デジタルフィルターも昨今の Pentax デジイチの例に習い、水彩画、ポスタリゼーション等主要なものは全て入っている。しかも水彩画エフェクト等も後処理ではなく、リアルタイム処理で画面を確認しながら撮影出来るから驚きである。PentaxQ のデジタル画像処理エンジンは、超小型で超高速、だ。
フォーカスも25点に対応し、連写は最大5コマ/秒。動画撮影も、Mac 等のパソコンでも処理し易い MPEG-4 AVC/H.264 規格で FullHD 対応だ。動画撮影時の音声は残念ながらモノラルだが、さすがにステレオマイクまで入れる場所は無かったのだろう。
実際の撮影画像は、01 Standard Prime レンズの作例はこちらを御覧頂き度い。(スライドショーでやや大きい画像は、こちらからどうぞ。)本日、03 Fish-Eye 17mm 相当 f5.6、04 Wide 35mm 相当 f7.1、05 Telephoto 100mm 相当 f8 の、3種類のトイ・レンズに関しても試写を行ったので、その作例はこちらで。(スライドショーの大きめ画像は、こちらから。)
Standard Prime は f1.9 と明るい標準レンズで、安定した画像を提供してくれる。1/2.3 インチと小さい CMOS サイズなので、開放ボケは限定的ではあるが、控えめながらもきちんとボケを出してくれる。人工的にボケを作り出す BC (Boke Control) という撮影モードもあるが、こちらは人工度合いが強すぎて、当方的にはあまり使う事は無いという結論。あくまで自然なボケで勝負していきたいレンズである。
3種のトイ・レンズは、適当に撮影している間はマニュアルフォーカスが定まらない印象だったが、使い込むと MF アシスト機能を利用し中央部の画像を 2-4 倍に拡大してピント合わせが出来る事がわかった。おもちゃレンズであるが、実はピントはシビアさが要求される。Far 一杯にしていると無限遠、という事も無さそうで、このあたりはスナップレンズとするには注意が必要だ。Fish-Eye を含めてあくまで一枚ずつ、しっかりピントを合わせて行く必要があるレンズの様だ。
それでもトイ・レンズなので、ピントがぼけた写真も多くなるのだが、たまに良い写真が出来上がる意外性のある面白さ、が味わえる。このあたりは、高品質画像を安定的に結像する Prime レンズと全く別の意味で非常に面白い。トイ・レンズはそれぞれ f 値は固定なので、全て絞り優先撮影となる。フォーカスも、レンズに電気接点があって伝えている為か、自動で AF から MF に切り替わる為、余計な操作は必要無い。特に Fish-Eye の180度画角は劇的なので、面白く使う事が出来そうだ。Wide/Telephoto の2本は、現在は重宝するが、Prime ズームレンズが登場すると出番が減りそうではある。
まだ全ての機能を試せてはいないのだが、前面に配置された、4つの番号を持つクイックダイヤル、この使い勝手の良さに当方は惹かれた。水彩画やモノクローム等のスマートエフェクトを当方は当てているのだが、要はそうしたリアルタイムデジタルエフェクトの切り替えを、専用ボタンで行ってくれるのである。専用ボタンがあるだけで、設定が容易になる事で、エフェクトの利用頻度は劇的に上がる。超小型ながらダイヤルの動作もしっかりとしていて、機能切り替えも素早く、感心しきりであった。
まだ1週間も使っていない PentaxQ だが、大きさは auto110 と同じでも、中身は同社の最新大型デジイチ K5 や K-r から譲り受けた機能も多数。小型/軽量で本機を求める初心者ユーザーも多いのかもしれないが、中上級者でも現在所有しているデジイチのサブ・スナップ機として、活用機会の多いカメラになるのではないだろうか。
30年前に auto110 ユーザーが見た夢は、21世紀のデジタルカメラ職人達の手によって、想像を越える独創的なナノ一眼に進化を遂げた、という事実がひしひしと伝わる渾身の作品。是非店頭で実機を手に取って、その実力を試して頂きたい。
最後に、当方から Pentax さん、または周辺機器メーカーさんへのお願いは、PentaxQ マウント用、auto110 レンズアダプターを開発頂きたい、という点。小さい CMOS なので、特に望遠側の倍率が大きくなって、面白く使えるはずである。Pentax の展示会では K マウントレンズ対応アダプターの試作品は展示された様だが、是非 auto110 用も発売して欲しい。切にお願いする次第。