家に戻り偶然見た TV 番組が、NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」。本日のプロフェッショナルは MIT Media Lab で Tangible Bit の研究を続ける、石井 裕教授。研究室の大学院生と真剣な議論を続ける石井教授の眼力の強さと、教育者としての優しさを拝見していて、自分の意識はすっと、10年前の Boston、MIT Media Lab の研究室を訪れた、米国駐在商社時代に戻っていた。New York を中心に多くの先端技術に触れる日々の中で、今でも強い「感覚」として自分に残っているのが、石井教授に「触らせて」頂いた、"Tangible Bit" のデモだったのである。
Broadband 回線の両側に、Computer を介して接続された、4本の、各20cm程の黒いゴム製ローラーが設置された2つの箱。ローラーは一本ずつ、精密なサーボ・モータで回転を制御され、手のひらで片方のローラーを動かすと、ネットワークの向こう側のローラーにIPで全く同じ動きが伝わる。ただそれだけのシンプルな仕組みだったのだが、石井教授が転がしたローラーが、当方側のローラーに強い反復回転を与えた瞬間を、今でも鮮明に思い出す事が出来る。見る・聞くだけのデモだったら、ここまではっきりとは覚えていないのだろう。触覚を伴う強い動きの余韻は、今でも手のひらに残っている。石井教授は、これを電話機と組み合わせると、音や映像だけでなく動きや温もりが伝えられるとして、熱心に説明してくれていた。そして10年の月日が過ぎ、今我々はモーション・センサーが内蔵された Wii のリモコンを、当たり前の様に操作している。リモコン内の振動装置を利用すれば、Tangible Bit のローラーに近いデモは、安価なゲームマシンとインターネットで容易に実現可能な時代が訪れた。家庭用ゲーム機が高速ネットワークで接続され、各種センサーを備えたリモコンがインターフェースとしてその先に繋がる世界になっているとは、10年前の自分が現実感を持って想像する事は、殆ど不可能だった。しかし、常に「自分の限界を超える」姿勢で「徹底的に考える」事を生徒に説いて居られる石井教授には、10年後、20年後の世界がより鮮明に見えて居られたに違いない。本日の番組で、改めてそう思う様になった。
自由が丘に、Joi が主催するインターネットの先端アプリケーション研究所、Joi Ito's Lab が開設されてから丁度1年。住宅街の小さな研究所から、ネットワークで世界の頭脳と接続し、新たな成果を生んで行きたい、そういう思いを強くした。
追記:リクナビの Tech 総研に、石井教授のインタビュー記事がありますね。「我ら"クレイジー☆エンジニア"主義 vol. 9」
本文とはまったく関係なくて申し訳ないですが、同じ番組の3月1日の放送予定をチェックしてみてください。
僕もちょろっと出演してます :-)
投稿情報: naan | 2007/02/10 10:43
おおっ、そうですか。なるほど、フィーチャーされる方を見て、出演理由がわかりました。楽しみに拝見しましょう。(フミちゃんの方からお願いしている貴地での撮影の件も、お手数ですがよろしくお願いします。)
投稿情報: digitalbear | 2007/02/11 09:43
[いいですね] ふだんは見ない番組なのですが、たまたま実家にいてテレビ見ました。"Tangible Bit"のデモは、最初の会社で何度か見た覚えがあります(残念ながら触ってないんですが、くー)。コンセプト、とか、アイディア、といった言葉が本来持っている迫力みたいなものを感じた番組でした。
投稿情報: blue3 | 2007/02/12 00:36
MIT Media Lab に匹敵する様な、実業界にも Back-up
され得る新しい大学研究所の仕組み、もう一度考えるべき時に来ているのかもしれないですね。NYU の ITP (Interactive
Telecomunications Program) も大学院レベルで、面白い研究をしていたので良く Open House
を見に行っていました。大学生の若い感性から生まれるコンセプトやアイディアを、ビジネス界にしなやかに結びつける仕組みが求められていると思います。
投稿情報: digitalbear | 2007/02/12 01:01